3.11の朝、私は早朝の便で成田空港に帰国する便に乗っていました。私が南スーダンから帰国してちょうど1ヶ月くらいたった頃でした。
乗っていた便は定刻とおりに到着し、荷物を引き取り、首都高を経由してバスで自宅に向かっていました。ああ、無事に着いてよかった。ああ、春も近いなあ、とぽかぽかする春の日差しをはっきりと覚えています。
のんびりするのもつかの間、それから1時間後に家が揺れたのです。
幸い私自身も家族も全員無事で、親戚や友人にも直接的に被害にあった人もいませんでした。
しかし、私の中で何かが起きたように感じました。
この時の地震で、私の中の「箱」が開いたのです。
震災が、私が南スーダンにいる間に無感覚になっていた部分の箱を開けたのです。
もしかしたら、何か少しおかしいんじゃないか?と感じたのは、満開の桜の花びらの下に立っていた時でした。
それまで海外生活の長かった私にとって生の満開の桜を見ることはとても楽しみにしていたことでした。
それなのに、その桜を目の前にしながら、私はきれいだとも美しいともうんともすんとも感じられなかったのです。
どうしたんだろう。。。
きっと疲れているからに違いない。しばらく寝て休んだら元に戻るよ。自分に言い聞かせるように思いました。
それからしばらく朝起きれない、という状態が続きました。
身体が空っぽになってしまったかのように、身体にまったく気力が入らないのです。
1日のルーティンといえば、ゆっくり起きて近くを散歩するのがやっと。何もやる氣がしない。誰かに会う気力さえないし、誰にも見られたくもない。。。
まさか自分が。。。
それまでバリバリを仕事をこなしていただけに、この自分の状態を受け入れることにはしばらく時間がかかりました。
そして、紛争や世界のニュースに関することをまったく聞きたくなくなり、テレビのニュースを見ることもほとんどなくなりました。
トラウマケアに関する研修を受けた時の資料にこう書いてあります。
「私たちの安全を脅かすような出来事に会ったり、極度の緊張状態が続いている時、それは脳の神経系統に影響を及ぼします。
それは、竜巻のようなエネルギーが身体の中に溜まっている状態です。そのエネルギーが数週間のうちに解放されるか統合されないと、いわゆるトラウマの状態を後に引き起こすことがあります。」
記憶は断片的になり、思い出すことができる時もあれば思い出せない時もある。感情を抑圧し無感覚状態(numbness)になります。自然災害や似たような出来事に遭遇することによって抑圧された部分が思い出される時、それは癒しの機会である。
時には激怒や不安、鬱や絶望としても現れる。こうした体験は同時に私たちの人生の『意味』も崩壊させることがある。」
「そうした環境に長い間身を置くこと、または、そうした影響を強く受けた人たちに関わることによって似たような症状を受けることがあり、それは『二次トラウマ』(secondary trauma)と呼ばれる。」
ああ、これだ!と知ったのは随分、後のことでした。
そして、無感覚な状態は、傷に鈍感になるだけでなく、
創造性、愛や喜びにも鈍感になってしまう、ことを知りました。
私は、自分の体験がここまで抑圧されていたとはまったく気づかなかったのですが、
こうした現象は、紛争地でなくとも、カウンセラーや看護師といった対人援助職に就く人にも多く見られることを知りました。
そして、
同時に、
これは、
私にとって、
少し大げさに聞こえるかも知れませんが、
生きる意味を再発見していくプロセスでした。
なぜなら、私がすっかり疲れきってしまっていたからです。
身体的な疲れもそうですが、それは気力、もっと言うとこれから何を目標にしたらいいのか?という「精神的な燃え尽き」でした。
それまでバリバリを仕事をこなしていた人が急に何もできなくなるのです。
私は強烈な劣等感に襲われました。
罪悪感にも襲われました。
強烈な「無力感」に襲われました。
時計の針が「真逆」に触れた気がしました。
こうした感情・感覚は実は私の中にもともとあったものだったのでしょう。
私はこうした感覚との付き合い方を学ぶ必要があったのです。
この時の私の心境をとても上手に表現してくれている本があります。
ブレネー・ブラウン「本当の勇気は弱さを認めること」2013年です。
人間は誰でも悩み、自分の無力さを感じることを知ること
弱みや不完全さを認めず、あるべき姿にそぐわない部分を切り捨て、認められるためにヘトヘトになるのでもなく、それも含めてありのままの自分を受け入れること
そのために役に立つことは、
・心の痛みを無視したり、自分を批判するのではなく、自分自身の温かい理解者になること
・否定的な感情を抑えすぎず誇張もせず受け入れること。
(痛みを無視したら痛みに共感することはできないから)
・否定的な感情や思考と「一体化しすぎない」こと、です。
著者のTEDでのスピーチは全世界総視聴回数ベスト3にランクインしています。
本当の勇気は「弱さ」を認めること-ブレネー-ブラウン-ebook/dp/B00GTAV3P6

ああ、これだ。
決して、簡単には聞こえなかったけれども、解決の方向が分かった気がして、安堵を覚えました。
私は少しづつ、
自分の弱さを受け入れること、
を学び始めました。
「本当の勇気は弱さを認めること」は続けます。
一生懸命にがんばることで目の前の課題を解決し、乗り越え、キャリアを築いてきた私にとって、自分の「弱さ」を受け入れることは決して簡単なことではありませんでしたが、
がんばる以外のやり方がある。。。
それは直感的にそうだろう、と感じていました。
そして、「弱さ」を受け入れることは、
自分がどんな人間で、どんな体験をし、何が大切なのかを再発見していくことでもあったのです。