米軍の特殊部隊を採用するために使われる試験のうちで、もっとも難しいものは、射撃技術でも格闘能力でもなく、人里離れた道をただ走らせるという試験だそうです。
この試験がなにより苦しいのは、フル装備をつけて走ることもさることながら、どれだけ走るのかを教えてもらえないこと。
5キロでいいのか、20キロなのか、はたまた50キロか?
勢いよく飛び出す人もいれば、慎重にエネルギーを温存して走り出す人。。。
27キロのフル装備を背負い、体力を消耗する中、もっとも辛いのは、肉体的疲労よりも、精神的な疲労。
どこまで行けばこのレースが終わるのかわからないという重圧に耐え切れず、多くの候補生が脱落する。。。
この試験が見ている状況とは何なのでしょうか?
この先に何が起こるのか明確に分からない状況に耐え、モーチベーションを保ち、自分の意思と判断を信じて進むという資質です。
この資質ことが、特殊部隊としての任務を遂行するための能力だけでなく、個人の関係であれ、ビジネスでも、子育てでも役に立つものとして捉えられているのです。
別の言い方をすると、「不確実性に耐える力」です。
では実際のところ、私たちはどれだけ不確実性に耐えられるのでしょうか?
不快な時や不安な時、人はどういう行動をとるのでしょうか?
私自身、32人のグループでこの事を肌で実感した体験があります。
ハーバード大学大学院ケネディースクールの教授によるリーダーシップトレーニングに参加していた時のことです。
その実験は突然始まりました。
企業、大学、NGOなどから参加者が集まった32人の反応は本当に様々でした。
グループをまとめようとする人あり、
なんらかの答えを出そうとする人あり、
議論を始める人あり
イライラする人あり
批判口調になる人あり
沈黙する人あり。。。
その実験自体に答えがある訳でもなく
それぞれの行動が正しかったか、間違っていたかという訳でもなく、
その実験のポイントは、自分はなぜあの時そういう行動をとったのか?という
自分の反応(パターン)を知るということでした。
まさに「不確実性」に対して人はどう反応するかという模擬体験でしたが、
人は答えがないという状態にかな~り動揺と不満を示すことがはっきりと表れた実験となりました。
怖れる
怒る
批判する
コントロールしようとする
隙間をなくそうとする
見ないふりをする
黙る
間違える不安、見くびられる不安、自分は劣っているという不安で
新しいアイデアを引っ込めてしまったり、本当に必要な意見を言わない。。。
見えないところでイノベーションを潰しているのはこうした不安や恥の意識なのです。
ハーバード大学で「一番影響を受けた教授」にも選ばれリーダーシップを教えるディーンウィリアムズ教授は、
本物のリーダーとは答えを示さない勇気を持てる人だと言います。
なぜなら、今の時代の課題は複雑すぎて、たった一人の人が「正しい解」を示せるわけではないし、その時には上手くいっていたことでも、これからはより柔軟に適応していくことが求められるからです。
別の言い方をすると「答えがない状態をホールドできる力」です。
そして、そこから学びを促せること。
なるほど、
変化の激しい今の時代、
リーダーが全てを仕切り、何でも分かっていると考えるのは時代遅れであるばかりか、むしろ害になるのだとしたら、一見「弱み」をさらすようだけれども、これこそこれからの時代に求められる勇気のあるリーダーシップの資質かも知れません。
私自身、米海軍のコンサルタントとして
あるプログラムの講師を務めることになった時に、
講師たるもの、人の前に立つものはなんでも全て知っていなければいけない、と思っていたので、
たった一言「分からない」と言うのが怖かったがために、
研修の準備のために、かなりの時間に費やしたことがあります。
あの時はずい分疲れました。(笑)
今なら分からないことは「分からない」と言ってもいいと思えるので、もっと楽にできると思います。
人はいろんなレベルで社会の変化を感じている。
「未知」と「予測できない」ことが日常になってきている。
不確実性は私たちを避けてはくれないけど、選べることがあるとしたら、そういう状況に対してどう対処するかということ。
だからこそ、まず、不確実性に対して自分はどんな反応をするのかに気づきを持つことはとても大切になりそうです。