議論と対話は違うーじゃあ「対話」ってなあに?ほんとうの理解や新しい発想を生みだす対話とは?②

無理にこちらが話そうとして相手にとって面白いのかわからない話題を続けるよりも、

質問をして相手に話してもらった方がいい、と言いました。

 

そして、

会話を広げる質問として、「対話的な質問」というのを挙げました。

 

では、何を「対話」と言うのでしょうか?

 

対話の特徴の一つはその前提とそのアプローチにあります。

 

私自身、南スーダンで元反政府軍の人たちと関係を築いていく中で、非常に役に立っていたと感じた「対話的な質問」がありました。

 

例えば、彼らが怒りだす時、彼らの真意がなかなか掴むめない時、表面的には同意しているようでも、何かがお互いの間で理解されていないように感じた時などです。

 

「今、あなたが仰った事はとても大切だと感じました。あなたが仰ったことを理解したいと思っているのですが、よかったら、どうしてそのように考えるようになったのか教えていただけませんか?と、聞き続けたことです。

 

別の言い方をすると、次のような意図の質問をすることです。

 

◎ どのような考えでその結論にいたったのですか?

◎ そうおっしゃるのにはどんな理由があるからですか?

◎ その考えの背景にはどんな事実や体験があるのですか?

 

これはどういうことを意図した質問かというと、

 

相手はなぜそう考えるのかということを理解する質問です。

 

その意味とは、

 

人が何かいう時、自分の意見や感想をいう時、

「人にはなぜそう考えるのかというそれぞれの体験や背景がある」という前提に立つことです。

 

その意見そのものとは同意できないし、相容れないように思っても、

人はなぜそう考えるのかというそれぞれの体験や背景は理解できるという考え方です。

 

そのためには聴くことにもっと意識的になることが必要です。

 

自らの意見を正当化し、議論に「勝つ」ためではなく、

自分とは違う意見や異なる視点を理解するために聞くこと。

 

相手の考えを主観的なものだと決めつけるのはなく、

相手がどのような体験を経て、

そのような考えを持つように至ったのかを理解するために聞くこと。

 

相手が間違っていると証明するためではなく、自分の理解を広げるために聞くこと。

相手に反論するためではなく、お互いの共通の理解を得るために聞くこと。

 

自分の推測に基づいて聞くのではなく、

新しい理解や可能性にオープンになるために聞くこと。

 

議論も対話も両方が必要なものですが、

お互いの理解や洞察が深まったり、新しい見方ができるようになったり、

参加者が納得するような同意が生まれる時には、

なんらかの形で対話的な要素が起こっていると言えます。

 

 

その上で、

一時的に自分の考えを保留し、人それぞれに持っている意見や価値観の背景、理由を探求し、共有できる新しい考え方を共に探っていくこと。

 

対話の力は、

変化の早いこれからの時代、

 

新しい発想や創造性を生み出す場づくりのスキルとして、

課題解決のスキル等として、

主体性を引き出す新しいリーダーシップのスキルとして、

多国籍なチームや全く違う考えを持つ人たちと会話を広げ合意を得ていくために、

対立や紛争解決(conflict resolution)の手段として、

 

これからますます大きな力となることでしょう。

人道援助・平和構築にとってストレスと燃え尽き症候群は、職務に対する適正のなさではなく職務上のハザード

人道支援や平和構築従事者にとって、ストレスとバーンアウト(燃え尽き症候群)という現象を、職務に対する適正のなさではなく、職務上のハザードとして認識することが求められています。

 

人道支援や平和構築従事者をめぐる治安状況はこの10数年で劇的に変わっています。人道支援を必要としている受益者が増えると同時に、人道援助・平和構築従事者に対する直接的な危害等はこの10年で倍以上に増えています。

 

また、そうしたリスクのある環境に長い間身をおくこと、なんらかのトラウマ的な体験を経た人と一緒に働くこと、または、トラウマ的な体験をした人たちの支援に関わることによって、人道支援や平和構築従事者が二次的外傷性ストレス(secondary traumatic stress)、または代理トラウマと呼ばれる、直接紛争を体験するような影響 (PTSD)を受ける可能性があることが知られています。

 

2013年にUNHCRによって行われた調査によると、47%のスタッフがなかなか寝付けない、57%の職員が空虚感を感じたことがあると回答しています。現場で人道援助に関わった人の5%~10% (30%という指摘もある)がなんらかの形でPTSDのリスクを抱え、40%以上の人が燃え尽きのリスクに晒されているという指摘もあります。

 

実際、職務の性質上、心的に混乱している人、腹を立てている人、悲嘆にくれる人、攻撃的な人、トラウマ的な兆候を示す人など、さまざまなストレスを抱えた人たちと接することは援助者に強い負担を伴います。また、あまりの課題の大きさや目の前の状況の過酷さに圧倒されると、自分の無力感や罪悪感が引き起こされ、必要以上にシニカルになったり、無感覚になることもあるかもしれません。

 

この数年において、人道援助や平和構築に関わる人たちが現場で直面するストレスや燃えつき症候群(バーンアウト症候群)に関する課題がクローズアップされています。2015年12月10日には、国連総会において、国連と人道援助従事者の安全に関して十分な配慮を行うことを求める決議(A/RES/70/104)が採択され、2016年の人道サミットにおいても、援助従事者のバーンアウトの課題が話題にされました。

 

このようなことが示すように、現場でのストレスやバーンアウトの課題は、職務に対する適正のなさではなく、職務上のハザードとして認識されているのです。

 

援助者と援助者を送り出す組織が、紛争地におけるトラウマの課題と援助者側の心身に起こり得る心理的・精神的反応を知っておくのは、自身の安全を確保する上でも喫緊の課題と言えるでしょう。

 

この講座では、ソーシャルワーカーや医療従事者などの対人援助職でみられる「対人援助疲労」・「共感疲労」「燃え尽き症候群」と呼ばれる現象とその予防策を、人道支援・平和支援従事者向けに整理してお伝えします。

 

平和構築関係者が多く受講することで知られる紛争地でのトラウマケアプログラム、Strategies for Trauma Awareness and Resilience (STAR)のエッセンスを交え、紛争後の社会の心理的適応・回復メカニズムを紹介しながら、それが、援助者にどう影響しうるのかー現場での心理的・精神的反応を国連職員としての現場の体験を交えてお話しします。

 

最後に援助者と組織ができる予防策と対策、「心的外傷後の成長(post-traumatic growth: PTG)」という概念をお伝えします。

 

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⬆️ 紛争後の社会が体験する心理的な適応・回復プロセスについて(STARより引用)

 

《この講座で学ぶこと》

⭐️ 紛争国における心理的適応のメカニズム(無感覚、怒り、無力感など)

⭐️ 援助者が現場で体験する・示す心理的・精神的反応(圧倒感、イライラ、怒り、無力感など)

⭐️共感疲労・燃え尽き症候群の特徴について

⭐️ 対人援助疲労・共感疲労と援助者のタイプについて

⭐️ 援助者としって知っておくべき健全な「境界線」(boundary)を持つということ

⭐️ 援助者と組織が今すぐにできる「共感疲労」予防策と対策

⭐️ 心的外傷後の成長(post-traumatic growth: PTG)について

 

 

《この講座を受けてほしいのはこのような方です》

⭐️ 紛争国での勤務を予定されている方、赴任中の方、帰国された方

⭐️ 援助者として共感をもちつつ、かつ受益者との健全な距離のとり方を学びたい方

⭐️ 現場の同僚を支援する立場にある方、組織として赴任者をサポートしたいと考える方

⭐️ 紛争地での勤務の後に、些細なことでイライラしたり怒ったりすることが多いと感じる方

⭐️ 自分は燃え尽きつつあるかもしれないと感じる方

⭐️ 現場での課題に圧倒される感じがして、やってもやっても終わらないと感じる方

⭐️ 援助者としての役割を心理的な側面から理解したい方

 

woman meditation on the beach

 

《講師 大仲千華》

国連職員として、南スーダン、東ティモールやニューヨーク国連本部などにおいて、元兵士の社会復帰支援(DDR)や国連平和維持活動、現地国政府の人材育成に約10年従事。2011年からは、米軍の専門家として、国連の平和支援に参加するアジアの軍隊に派遣され、講師を務める。南スーダンにおける除隊兵士の動員解除・社会復帰支援(DDR)では、ソーシャルワーカーや心理サポートを取り入れるなど、社会心理面からのアプローチに興味を持つ。

帰国後、PTSDから燃え尽き、何もやる気がしない・朝起きれない・働けなくなり、心理学やカウンセリングを学び始める。現場での仲裁や対話、心理面からのアプローチを目の当たりにし、現在は、カウンセラー・コーチとして活動中。世界で二人目のプラクティショナー認定を受ける。課題の「根っこ」の部分を見据えた的確なアドバイス洞察力は評判が高い。医療従事者の燃え尽き症候群などのクライアントも多い。紛争とトラウマケアに関する研修コース Strategies for Trauma Awareness and Resilience(STAR)終了。

 

カウンセリングについてはこちら⇨コーチング・カウンセリング

 

《日程》

⭐️第一回 日時: 2016年12月3日(土)  13:30-16:30

場所: スクエア荏原第二小会議室

 

お申し込みはこちら⇨ お申込みフォーム

スクエア荏原アクセス: http://goo.gl/VNzroL

(南北線、三田線、目黒線武蔵小山駅、戸越銀座より徒歩10分)

 

講座参加費:5,000円(税込み)

⭐️第二回 日時: 2016年12月10日(土) 13:30-16:30

場所: スクエア荏原第二小会議室

 

お申し込みはこちら⇨ お申込みフォーム

スクエア荏原アクセス: http://goo.gl/VNzroL

(南北線、三田線、目黒線武蔵小山駅、戸越銀座より徒歩10分)

 

 

講座参加費:5,000円(税込み)

 

内戦をしてきた軍隊の前に立つことになったら?②「パースペクティブテイキング」の威力

自分の視点や価値観を押し付けずに、いったん相手の意見を受け止め、なぜ相手はあのような事を言うのか、と相手の視点で物事を見ることー

自分の視点と考えから一旦距離をおいて、相手の視点と立場に立ち、相手の相手の思考のフレームワーク、価値観や感情を理解すること。

 

これは、「パースペクティブ・テイキング(perspective taking)」と呼ばれます。

 

では、相手の視点や考え方を理解すると、どんなことが可能になるのでしょうか?

パースペクティブ・テイキングの力とはどのようなものなのでしょうか?

どんな時にそれが力になるのでしょうか?

 

私自身、武装勢力との内戦を展開中のフィリピン軍で、研修の講師を務めることになった時に、正にこのパースペクティブ・テイキングの力を実感したのです。

 

それは、フィリピンで軍を対象に行っていた国連平和維持活動(PKO)に関するトレーニングの講師を務めていた時のことです。

 

国連のPKOに関するトレーニングには国連が設定した基準があり、国際人道法から交渉、住民の保護、武器使用基準(基本的には自己防衛と住民の保護でのみ武器の使用がゆるされる)など、国連要員として派遣されるための知識とマインドセットを学び、シナリオを使った仮想国での演習を行います。

研修は、2週間半ほどのStaff Offier(軍参謀)候補者向けのトレーニングで、決して簡単な内容でもなかったのですが、2日、3日経ってもなぜか受ける人達が集中していないように感じました。

出てくる質問も、国連PKOが主に展開しているアフリカや国連の活動とは違った質問が続きました。

 

さて、いったい何が起きているんだろう???

 

質問を受けたり、話しを聞きながら、彼らの状況を探ってみると、彼らの中にはつい最近まで、フィリピン軍と武装勢力が内戦中のフィリピン南部のミンダナオから戻ってきたばかりの人も多くいた事が分かってきました。

彼らにとってはミンダナオの状況こそが緊急の関心であって、これは国連の平和維持活動に関する研修だとは分かっていたとしても、一向に良くなる気配のない南部の状況を思い出しては、フラストレーションを感じていたらしいのです。

 

口に出さずとも、その時の彼らの心境を訳するとこんな感じだったのかも知れませんー

「正直、僕たちは遠くのアフリカの問題よりも、ミンダナオのことで困ってるんだよね。。。」

 

ふーーーむ、なるほど。。。

 

いくら職務の一環として研修に参加しているとは言え、彼らのおかれた状況を考えると、それはある意味当然の反応だったのかも知れません。

しかし、米軍の専門家として、国連の平和維持活動に関するトレーニングの講師を務めるという立場でフィリピン軍(政府)に招かれている私(たち)が、現在進行形で軍が「作戦」を展開している内戦に関して直接的に言及するのは職務外であるばかりか、政治的にもとても賢いやり方とは言えません。

 

さて、ミンダナオという名前に触れることなく、

それでも、彼らの状況に何かしらの洞察やヒントを伝えることができて、

しかも、同時に彼らの意識を国連の平和維持活動に向けてもらう方法とはいったい何だろう???

 

その時の彼らの心境に心を馳せながら、

しばらく考えてから、考えたのは、こんなエクササイズでした。

 

まず、紛争が終わったばかりの国が復興へ向かうために鍵となるものは何か?という講義 (DDRについて)の中で、そうした国で元兵士の人たちが直面することになる状況やチャレンジについて触れました。

彼らと基本的な理解を共有するためです。

 

私の働いていた南スーダンでの事例を交えながら、「兵士」をやめ、新しい生活を築いていくという事とはどういうことなのか?ー

その人がどちら側 (政府軍、または反政府軍、またはゲリラ兵)であれ、「兵士」をやめ、新しい生活を築いていくという事とは、生計を立てるという経済的な側面はもちろん、大きなメンタリティーのシフトを求められるという意味においても、その人にとって非常に大きな「人生の転換期」となることを伝えました。

 

そして、

南スーダンの写真を含めながら、公式なレポートや統計を読むだけでは分からない

「生の人間の声」をなるべくリアルに伝えようと思いました。

 

その上で、

「あなたが国連要員として派遣され『反政府勢力』の元兵士の人たちを支援することになったら?」という設定で、彼らのおかれた状況を分析してもらった上で、より具体的な支援案を考えてもらうことにしました。

 

彼ら自身も軍人なので、兵士の人たちの心境というのは想像しやすいのかも知れません。

除隊させられる(武装解除)というシナリオに思わず共感したのかも知れません。

南スーダンの写真がよかったのかも知れません。

エクササイズとは言え、「国連」という役回りとして、いつもの立場から離れることができたのもよかったのかも知れません。

第三国というちょっと離れたコンテクストがよかったのかも知れません。

口に出さずも、私自身も彼らの心境を受け止めていたのがあるレベルで彼らに伝わったのかも知れません。。。

 

いずれにせよ、気がつけば、議論は盛り上がり、彼らの口からでてきた「反政府軍」の人たちへの支援案は、非常にリアリティーに溢れたものになりました。

なによりそこには彼らの「反政府軍」への洞察と理解がはっきりと示されていたのです。

 

その後、トレーニングは順調に進み、彼らは国連のPKOという「第三のコンテクスト」を通じて、自然と自分の国の状況に対しても多くのヒントを得たようでした。

 

これこそが、正に「パースペクティブ・テイキング」の力です。

 

あまりにも利害関係やお互いへの影響(感情)が大き過ぎて、直接的にはその状況そのものを扱えない場合でも、「第三のコンテクスト」を使うこと、または、同じ状況を相手の側から見るという機会を得ることによって、初めて見えてくるアイデアや発想、相手との共通点というものが存在するのです。

 

ネイティブインディアンの格言には、「相手のモカシンを履いて1マイル歩いてみるまでは相手のことを批判してはいけない」(Never criticize a man until you’ve walked a mile in his moccasins.)というものがあります。

 

人間は、自分が理解されたと感じる時、または、少なくとも相手は自分のことを理解しようとしているようだと感じられる時、その人に対してオープンに耳を傾けることができます。

 

私自身、日々パースペクティブテイキングの力を発見する毎日です。