その2秒が世界を救うーまだ「声になっていない声」に耳を傾ける対話の力と自己認識力

1980年初頭。米ソの緊張が再び高まり、西側陣営と東側陣営の間に大きな溝がある時代でした。

 

そんな状況で、どうすれば全関係者を集めた核軍縮の対話を始められるのか──考えに考えた末、エルワージーは3つのことに気がついたのです。

 

前回までの記事➡️「ネガティブな自分」に向き合えば運命は拓ける!ノーベル平和賞に3度ノミネートされた女性から学ぶ「内的な力」①

 

1つ目は、博士論文の執筆のために各国の核政策関係者に聞き取り調査をしたときのことです。そのときにエルワージーが気づいたのは、核保有国はどの国も「もし相手が攻撃してきたらどうしよう」という強い猜疑心に憑りつかれて互いを恐れながらも、それぞれの相手の実情はまったく知らないということでした。

 

さらにその聞き取り調査によってわかった各国の思考パターンを認知マップにまとめたところ、それが各国の相互理解を促す役割を果たし、率直な議論が生まれました。これが2つ目の気づきです。

 

3つ目は、それまでに何百回とおこなわれたなかで成果を挙げた数少ない会議の共通点は、参加者全員の意見が尊重されるオープンな雰囲気だったということでした。

 

こうした気づきから、核開発問題にかかわるすべての人がひとつの場所で顔を合わせること、それぞれが公式見解をただ一方的にスピーチするのではなく、ひとりの人間としてオープンに対話ができる場を設けること──それこそ対話の成功の鍵だとエルワージーは推測したのです。

 

「その2秒」が世界を救う

 

とはいえ、核軍縮会議の参加者たちのお互いに対する警戒心は強く、緊張感は並々ならぬものがありました。そこでエルワージーは、議題や参加者の選定など、会議全体を注意深く計画し、準備を進めたのです。会場は、英国オックスフォード郊外の、美しい庭園のある会議場を設定するようにしました。

 

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会場に選ばれた英国オックスフォードにあるRhodes House

 

会議を成功に導くためには、参加者全員が安心感を持ちながら公的な「仮面」を外し、お互いをひとりの人間として見ることができるような「場」を作らなければならないとエルワージーは考えました。

 

そこで会議の運営者たちが着目したのが、「内的な力」と「自己認識力」です。

 

ここで言う内的な力とは、会議場で生じるだろう不安や対立を敏感に察知し、そうしたネガティブな状態をまずは自分自身が克服して、安定した精神状態で周囲を導くことを指します。

 

 

核軍縮問題に限らず、テーマが難しい会議である程、始まる前から外部の冷笑や無関心に直面することもあるでしょうし、本当にうまくいくのだろうかと自分の中で不安がよぎることもあるでしょう。

 

会議の参加者たちにはそれぞれの立場や前提を持ち込みます。

公的な見解をただ繰り返すだけの人もいれば、批判的な人もいるかも知れません。

会議に協力的な人もいればそうではない人もいます。

「この話し合いは失敗に終わるのではないか」という思いが頭をよぎるかも知れません。

 

しかも、こうした感情の揺れは一瞬にして起こります。

 

こんな精神状態に陥っては冷静に物事を判断することもできませんし、ほんとうの対話や解決策を生みだすこともできません。

 

「自己認識力」とは、そういう時にこそ「たった2秒」でもいいから「間」をとることができて、自分が感じていること、反応することを客観的に理解でき、その場で適切な言動を決められることです。

 

エルワージーは当時を次のように振り返ります。

 

「こういう問題にかかわっていると、情けないくらいにエネルギーが抜けていく状態を経験する。感情がかき乱され、疲れ果て、燃え尽きる。私たちはたいていまったく不十分な手段で、最も困難な人間の問題に対処しなければならなかった。

 

けれども、こうした焦燥感はしばしば内部の誤解や確執、コミュニケーション不足、そして、自己認識の欠如から生じるということに同時に気がついた。

 

だから、こういう仕事をするには、情熱をもって純粋な気持ちで取り組むことだけでなく、自己認識力と内的な力が不可欠だ」

 

 

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⬆️ シーラエルワージー

 

自己の「シャドー」に打ち勝つために

 

「内的な力」を育むことには、前回お話ししたシャドーが大きく関係しています。自己のシャドーを自覚していないと、自分の負の感情を相手のせいにしてしまうので、他者と建設的な関係を築くのが難しくなってしまうからです。

 

シャドーは私たちを、偏見に照らし合わせて他者の人格を勝手に決めつけるように仕向けます。しかも当人は「自分が正しい」と思い込んでいるので、相手を批判するための情報ばかりが目に入ってきてしまうのです。

 

このような状態を「ダウンローディング」といいます。私たちは、すでに確立された見方をテープのように繰り返しながら、周囲の人たちを評価しているのです。

 

しかしながら、自分の考えがシャドーに端を発していて、これが唯一無二の見方ではないと自覚していれば、ネガティブな感情に惑わされず他者にオープンでいられます。同意するかどうかは別として、相手の立場や背景を理解することもできます。

 

米英中の歴史的な対話を実現

 

とはいえ、エルワージーも、核軍縮のための会合で真の対話を起こすまでにはたくさんの失敗をしたと言います。

 

「特に最初の頃は、核兵器が人類を危機にさらしていることに抑えきれない怒りを感じ、高い道徳的見地から見下して語ったりしたこともあった。でも、正義がこちらの側にあるからと言って、相手が聞く耳を持つはずもないし、まったく効果的ではなかった。

(中略)

 

そうした体験を経て、自分のなかの怒りやフラストレーションを克服し、 難しい状況を切り抜けることを学んでいきました。

 

あるとき、中国代表の発言によって、議論が白熱したことがありましたが、エルワージーは3分間の沈黙を提案し、参加者は落ち着きを取り戻しました。

 

短い瞑想でしたが、再開されたときには、対話を前に進めることができました。

 

その結果、エルワージーは、中国で文化大革命が終わって間もない1986年に、中国人民平和武装協会の事務総長と米英核政策関係者との面会を成功させるという快挙を成し遂げました。

 

それだけでなく、冷戦化で最もデリケートな問題であった核分裂性物質管理の問題に関しても、初めて米英中3ヵ国の対話を実現させたのです。

 

接触そのものが困難だった時代に、中国核政策部門の大物との会合をエルワージーがアレンジできたことに、欧米の政府関係者は心底驚いていたそうです。

 

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⬆️ 英国と中国代表団との会合

 

エルワージーは、核保有国を集めた対話を完全非公開で15年間も継続しました。これにより対話が冷戦化でも信頼関係を生むことを証明し、核軍縮に向けた国際的な取り決めの潮流を作り出しました。

 

「こうした困難な仕事を経験することによって、内的な力を発揮する方法を学んだ」とエルワージーは後に語っています。

 

内的な力をマスターすることこそが、彼女が13歳の頃からずっと求めてきた「究極のトレーニング」だったのでしょう。

 

「自己認識力」があり、自分と他者の内面の動きがわかれば、落ち着いて現状や課題を整理することができます。

 

具体的な解決策がわからなくても、個々の見解を整理すれば、ほんとうの課題が見えてきます。

 

焦点を改めて解決策に向け直すことができます。

 

互いにオープンに耳を傾けることができます。

 

相手を説得させようとするのでもなく、まだ「声になっていない声」に耳を傾けるのです。

 

そこから生み出されるものがほんとうの対話です。

 

目の前の世界が開けるように、これまで見えていなかったものが見えてくるでしょう。

 

そのような「オープンさ」の中でこそ、生まれる新しい発見や可能性があるのです。

 

(写真)デスモンツツ司教とシーラエルワージー

 

クーリエジャポン 2018年1月2日 掲載 大仲千華

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投稿者: blossomjp

80カ国以上もの人達が ー文化も言葉も職歴も違う人達が ー アフリカの僻地で出会い、突然「国連軍」として「国連警察」として「国連職員」として仕事を始めることになっった。。。 国連に「出稼ぎ」に来ている人もハーバード卒業の「エリート」もみんな一緒。カオスでにぎやかな現場で80カ国の人たちが一緒に平和を築くためには?!

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