「パースペクティブ・テイキング(perspective taking)」という言葉があります。
自分の視点と考えから一旦距離をおいて、相手の視点と立場に立ち、相手の相手の思考のフレームワーク、価値観や感情を理解すること。
いったん相手の意見を受け止め、なぜ相手はあのような事を言うのか、と相手の視点で物事を見ること。
こうした力は、世界で活躍する人が持つ力としても挙げられるものです。
これは、相手のことを理解するのは大切です、というモラルの話しではありません。
相手と見ている全体像が違ったとしても、相手の立場から同じ状況を見て、そこから互いの共通点を探っていく能力は、いろいろな意見を建設的な方向に導くリーダーシップ能力としても捉えられています。
私は、ニューヨークの国連本部で仲裁(mediation)と交渉に関するトレーニングを受けたことがありますが、その中でも関係者の意見や見解を相手の視点で理解するということをはとても重要とされました。
さて、2020東京オリンピックに向けた施設負担の議論が連日続いています。
2020東京オリンピックは東京に住む人だけでなく、多くに人にとってエキサイティングなイベントなのは間違いないでしょう。
でも、私たちは相手国を迎える立場です。
主役は参加する選手の人たちです。
もう少し相手の視点に注目がされてもいいと思うのです。
ではそんな視点から質問です。
1964年 東京五輪に参加した国と地域はいくつだったでしょうか?
2016年 リオデジャネイロ五輪に参加した国と地域はいくつだったでしょうか?
答えは、 以下の通りです。
1964年 東京五輪参加国・地域=94
2016年 リオデジャネイロ五輪参加国・地域=207
2倍以上もの差があります。
さて、この差は何でしょうか?
この期間に何が起こったのでしょうか?
私たちが「おもてなし」できるためにも、どんな歴史があって、どんな人たちが参加するのかは知っておきたいところです。
答えは、
中東とアフリカの植民地の独立です。
例えば、
1952年4月 – 日本が独立を回復。
1956年 スーダンがエジプトおよびイギリスから独立。
1961年 クウェートがイギリスから独立。
1963年12月 – ケニアがイギリスから独立
1965年7月 – モルディブがイギリスから独立
1965年8月 – シンガポールがマレーシアから独立
などです。
アフリカの国のほとんどは、まだ独立していなかったか、または独立して間もなくてオリンピック委員会への登録などの制度が間に合わなかったという訳です。
今ではあんなに発展しているシンガポールの独立がたったの1965年だったということは今見ると少しびっくりします。
日本の独立回復もたったの1952年で、オリンピックは日本の主権復活を世界にアピールするものでしたが、世界の半分しか当時は参加していなかったことになります。
そういう意味では、アフリカを含め文字通り「世界の祭典」となったのはごく最近のことなのですね。
さて、ロンドン五輪には参加しなかったけれども、リオ五輪で増えた参加国の一つは南スーダンです。
南スーダンが独立する前には、南スーダン出身というだけで公務員試験すら受けらなかった歴史的背景があるので、いくら優秀でも紛争と南北格差・差別で出場できなかったかも知れません。
なので、彼らにとってリオオリンピックがはじめて自由に平等に参加できるオリンピックでした。
東京オリンピックのニュースも施設や予算のことが多いですが、当然ながら参加する人たちの歴史や体験、視点というのがあります。
本当の「おもてなし」のためにも、ホストされる側の視点や事情を学んでおきたいところです。