最近ビジネススクールで使われている言葉にVUCAワールドというものがあるそうです。
VUCAワールドとは、
volatility
uncertainty
complexity
ambiguity
の頭文字をつないだもので、
文字通り、
変動が激しく、
不確実性が高く、
複雑で、
曖昧な
世界のことを指しています。
改めて指摘する必要もない位、為替の変動から国際情勢まで、今私たちは変化の激しい時代に生きています。そして、ひとつひとつの出来事が、今まで体験したことのないような早さで複雑に影響し合い、思ってもみなかった方法で他の出来事に繋がるようなことも起きています。
別の言い方をすると、
私たちは、もはや前例のない「解がない時代」を生きています。
最近、世界で政情不安やナショナリズムが激しくなってる背景には、未知の不安に向き合い、答えがすぐにでないような複雑さや不確実性に堪えるよりは、「不正確でもいいからより単純な答え」を求め、
自分に安全をくれると感じられるより大きな集団に帰属感を求めるようになっているからだ、という指摘もあります。
私が、南スーダンのような国で仕事をしていた時、それは正に不確実性が極めて高い環境で、解のない課題に向き合う作業そのものだったのですが、私にとっては必ずしも大変だったという記憶だけではなく、ある意味前例もないからこそ、何をやってもいいという切り拓いていく面白しろさがありました。
ただ、最初からそう思えたかというとそういう訳でもなく、
不確実性に耐えるメンタリティーと、解がない中で解を導き出すための「考えるステップ」を積み重ねていったように思います。
私がそうしたスキルを初めてきちんと習ったのはオックスフォード大学の大学院でした。
私がオックスフォードに入学してびっくりしたのは、教授と学生が1対1もしくは1対2で議論をしながら学んでいくチュートリアルと呼ばれる個人指導のシステムでした。
アメリカの大学が授業(議論)への参加と毎週出される課題を中心に進んで行くのに対し、オックスフォードではこのチュートリアルこそが日々の勉強のメインであって、講義の数自体もそんなに多くなく、講義はチュートリアルを補完するものと考えられていました。
学期が始まる前から、卒業生からオックスフォードとケンブリッジの特徴こそチュートリアルなんだよ、とは聞いてはいたものの、さて、それだけで修士課程の勉強が成り立つんだろうか?と正直ピンと来ないまま学期を迎えたものでした。
🔼 オックスフォード大学入学式
では実際にチュートリアルでは何をするのでしょう?
チュートリアルは、週に1回1時間程度、教授と学生が1対1もしくは1対2になって行われ、学生は毎週与えられたテーマについて事前に調べ、質問に対する回答を小論文として書いて臨みます。
1週間で20冊~50冊位の文献のリストが渡され、
そのテーマについてはどういう事がすでに言われていて(先行研究のレビュー)、
何がその点で大切だとされていることは何かまとめ(論点の整理)、
課題の質問に答えることになります(議論の結論)。
⬆️ ハウスメートと一緒に。このガウンは日常的にもディナーで着る。
言うは易し。
学期が始まるやいなや、キャンパスでは一斉に「メンタル・アスリート」のような生活が始まります。
週一回のチュートリアルの日、徹夜明けの目をこすりながら、自分の書いた小論文を手に教授の部屋をノックします。
ソファーのような椅子に座り、少し挨拶を交わしてから、自分の書いた小論文を声に出して読んでと促されます。
私の担当の教授は、あまり多くを語らない方でしたが、読み終わると、たいていこのようなことを聞かれたものでした。
「それはどういう意味?」
「そこをもう少し説明してくれる?」
「なんでそういう結論になったの?」
そして、時にはもう一人のチュートリアルのペアの南アフリカ人のクラスメートに「あなたはどう思う?」と議論がふられていきます。
チュートリアルが終わると、
その週の課題を終えて、一旦ホッとするものの、
その課題の結論を教授が言うわけでもなく、
模範回答や講義の資料やパワーポイントが渡される訳でもなく、
何かを理解したような確かな手ごたえをつかんだ訳でもなく、
自分が勉強していることは果たしてどこかに向かっているんだろうかと、
大きな雲をつかむような作業が果てしなく続くように感じられたものでした。
ただ、いま振り返ってみれば、
このチュートリアルこそ、
何を学ぶかではなく、いかに学ぶかを教えてくれた最強の機会だったと分かります。
チュートリアルは、
正解を求めるというよりは、
先人の歩みを追いながら(それまでの洞察や理論の積み上げを自分の中で言語化し)、
自由に考え、
新しい解を導き出すための考える方法(思考プロセス)を教えてくれていたのでした。
🔼 寮の部屋からの景色ー課題が終わらず泣きそうになった時に窓から見えたリスに癒された
このチュートリアルの体験は、
「どんなテーマでも自由に追及して良い」という雰囲気の中で、
「多様な視点があってよいこと」、
「解は必ずしも一つではないこと」、
「自分でテーマをみつけ、向き合い、探求する楽しさ」、
「解のない課題に対して向き合うメンタリティー」の土台を私に身につけさせてくれたように思います。
これからの解のない時代、新しい解を求めるための考え方(思考プロセス)はますます重要になってくることだと思います。
では、オックスフォードの教授はなぜあのような質問をするのでしょうか?
その質問の意図とは何なのでしょうか?
解のない時代に解を見つけるオックスフォード流「考えるステップ」②
(まとめ)
変化の早い不確実性の高いこれからの時代においては決まった正解があるとは限らない。
正解のないような問いに対してどうやって考えるか・アプローチするかが問われる。
解を求めるのではなく解を導き出す思考プロセス(考える過程)を学ぶ。
解のない時代に解を見つけるオックスフォード流「考えるステップ」②
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