マイストーリー④ 日本生まれ日本育ちの私がオックスフォードに入る

ボスニアやルワンダで民族紛争と虐殺が起きた5年後、私はオックスフォード大学院に入学しました。

専攻は社会人類学(Social Anthropology)です。

オックスフォード大学と言えば、数々のノーベル賞受賞者や首相や哲学者を生んだところ。大学内には博物館のようなところさえあります。

 

わたし授業についていけるんだろうか?

どんな人達がいるんだろう?

どんな勉強するんだろう。(ドキドキ)

 

緊張と興奮が混じり合った気持ちで、9月のある日、ロンドンのヒースロー空港からバスに乗って、オックスフォード大学のキャンパスに到着しました。

ここはどこ???

目の前には、まるで中世にタイムトリップしてきたかのような世界が広がっていました。

 

Sheldonian_Theatre_Oxford

 

オックスフォードにはいわゆる大学の校舎というものがありません。キャンパス一体には、学部とカレッジなどの石作りの建物と普通の家が研究室になったような建物が点在しています。学生はカレッジと学部の両方に所属し、基本的にはカレッジが提供する寮で暮らし生活をしながら、研究をしに学部に通います。

古いカレッジになると創立は12世紀とされ、それはまさに「ハリーポッター」の世界です。

 

その象徴の一つが、カレッジのホールで食事をするというフォーマルディナーと呼ばれるものでした。そのディナーでは、教授たちが「ハイテーブル」という一段高いテーブルに並び、全員がガウンを着て、食事の前には、ゴーンとゴングが鳴り、ラテン語で「グレイス」と呼ばれるお祈りをしてから食事をするという伝統がありました。全員が横長いテーブルに席に着き、スープからメインからデザートからコーヒーまで付くフルコースです。

 

 

ドレスコードはガウンと以下のようなものでした。

男性: 白蝶ネクタイ、白シャツ、黒スーツ、黒靴下、黒靴。

女性: 黒リボン、白ブラウス、黒スカート又はズボン、黒タイツ、黒靴。

オックスフォード入学式②

⬆️ 入学式にて。フォーマルディナーにはこのガウンを着て参加する。

 

このディナーはオックスフォードの特徴の一つで、いろいろな学部の教授や学生(修士と博士課程)たちが隣合わせで食事をすることで、自分の研究に多様な視点を取り入れることができる効果があると言われています。

教授と学生が一緒に食事をすることも、多様な視点を取り組むこともおおいに賛成!

 

ただ、あのー、もう21世紀だという時代に学ぶ私としては、ぶっちゃけ「違和感」もあります。

 

あのー、「ハイテーブル」って今でも必要なんでしょうか?

あのー、ガウンぶっちゃけ面倒くさくないですか?

もう制服とは一生おさらばしたと思ったのに。。。やれやれ。

 

実際、そう思う現代人は少なくないらしく、彬子女王殿下でさせ「赤と青のガウン オックスフォード留学記」の中で、もっと表現はもっと穏やかでも似たようなニュアンスのことをおっしゃられているのを発見した時、わたしは皇室に大きな親近感を覚えたのでした(笑)。

 

これでも私の所属していたカレッジはかなり簡素化されていたらしいですが、よくも悪くも「伝統」というものの力を感じたものです。

 

ただ、多様な視点をお互いに交換できる環境や仕組みがあるというのは学校や学生全体にとってとても大きなメリットだと思いました。

 

私がとてもワクワクしたのは、学部と寮がまさに「多様性」だった点でした。

オックスフォードの教員の41%は100ヶの国や地域の出身者で、留学生の出身国は140の国(と地域)にのぼり、大学院では62%がイギリス以外の国からの留学生です。

 

4階建ての一軒家が「寮」となりました。ハウスメートは、ポルトガル系アメリカ人、インド系イギリス人、中国人、タンザニア人、スリランカ系イギリス人とイギリス人夫婦、そして日本人の私でした。

オックスフォード寮

⬆️ 寮のハウスメートたち。楽しみは一緒にご飯を食べること

毎日、本を読んで小論文を書くことの繰り返しの生活。私たちの大きなの楽しみは一緒にご飯を食べたり、外に食べに出かけることだったのですが、これだけの人たちが共同生活をするのです。時には、キッチンの使い方でけんかもありました。

「また、『あのタンザニア人』キッチン汚しっぱなし。」

「なに、『あの日本人』いつもうるさい」

かくして、私の「民族紛争」に関する研究は寮のキッチンが現場の一つになりました。(笑)

 

私が所属した社会人類学学部(Faculty of Social Anthropology)は、学部の性質上、おそらくオックスフォードの中でも一番多様性(国籍)が高い学部の一つだったと思います。人類学部のクラスメートは、トルコ人、エジプト人、パキスタン人、マリ系フランス人、イギリス人、日本人、インド人、インド系南アフリカ人などでした。

 

学問柄、旧植民地の人たちが多く、そして、当時わたしが日本では聞いたことのないような、リアルなその国の問題が議論されることが多く、最初は日本では聞いたことのない話しばかりで本当にびっくりしたのでした。

 

パキスタンから来た二人の女性の留学生は、奨学金をもらえないと留学できないという国だけあって、二人とも優秀かつ賢明な女性で、一人は、「honor killing」と呼ばれる、婚前交渉・婚外交渉を行った女性は家族全体に不名誉をもたらすという理由で、この行為を行った女性の父親や男兄弟が家族の名誉を守るために女性を殺害する風習についてをテーマにしていました。

(うわー、すごい勇気あるなあ)

インド系の南アフリカ人の女性は、アパルトヘイトが終わり、マンデラ大統領が大統領任期を終えたばかりの南アフリカのことを、「大統領は素晴らしい成果をたくさん残してくれた。ただ、南アフリカでの人種の断絶や暴力の種はまだ大きいの。私たちの国の本当の将来はこれから。」と言っていました。

 

私が人類学を志望した理由ー

それは、ボスニアでの民族紛争やルワンダでの虐殺がショッキングだったことから、民族や人種が違うとなんで争うのか、民族の違いが紛争になる時はどんな時で、それはどうしたら防げるのか?ー「民族」や「紛争」という現象について人類学・社会学的な視点から検証すること、そして民族や宗教の違いを争いの素にするのではなく、多様性にすること。

私は、さっそく、彼女たちの口から語られるリアリティーに圧倒されそうになりました。

 

そして、オックスフォードで、もう一つびっくりしたのは、学生と教授が1対1もしくは1対2で議論をしながら学んでいくチュートリアル(個人指導)というシステムでした。アメリカの大学や大学院が授業(議論)への参加と小論文の提出など授業と課題中心で進んで行くのに対し、オックスフォードでは一対一の指導が授業そのもので、授業の数自体はそんなに多くなく、チュートリアルを補完するものと考えられています。

チュートリアルには、週に1回、1時間程度、学生は、毎週与えられたテーマについて調べ、小論文を書いてのぞみます。

 

1週間で20冊位の文献リストが渡され、

そのテーマについてはすでにどういう事が言われていて(先行理論のレビュー)、

何がその点で大切だとされていることは何かをまとめ(論点の整理)、

課題の質問に答えることになります(議論の結論)。

 

言うは易し。

学期が始まるやいなや、キャンパスでは一斉に「メンタル・アスリート」のような生活が始まります。

①メンタルアスリート的生活: 読む・考える・書く

まず、20冊以上もの文献を読まないといけません。まず、図書館に行き、コピーマシーンの前に立ち続けながら、黙々とコピーの作業を始めるのが日課になります。当時はまだデジタル化されておらず、大量なのですぐに5千円のコピーカードが終わってしまうのにはびっくりしました。そして、課題のテーマについて読み始めます。

時には、何度も何度も何度も読み返します。だって、意味が分からない。。。でも、この本だけに時間はかけられない。。。ここのポイントは何なんだ?!今から残りの時間でどの本を読んで、どの部分に時間をかけて、何て結論をしたらいいんだろう。時には、自分だけが分からないんじゃないかと落ち込みながら(みんな一緒なのですが)、百年、何十年にもわたる引用と洞察の積み上げを自分の中で理解し、言語化するという作業の始まりでした。

②メンタルアスリート的生活: 伝える・議論する「なぜそうなるの?」

週一回のチュートリアルの日、徹夜明けの目をこすりながら、教授の部屋に行きます。自分の書いた小論文を読んでと促され、声に出して読みます。読み終わると、私の担当の先生は、あまり多くを語らない方でしたが、ぼそっと「これはどういう意味?」「そこをもう少し説明してくれる?」と一つか二つの反応が返ってきます。課題に対する洞察が足りない場合や全体の展開が甘い場合はその点を指摘されたりもしました。

③メンタルアスリート的生活: 私は今何が分かっていて何が分かっていないのか?

先生によってチュートリアルの雰囲気も内容もかなり変わるらしいのですが、一旦その週の課題を終えて、ホッとするも、答えがあったようななかったような、自分の中で理解が進んだような進んでいないような、大きな雲をつかむような作業が果てしなく続くように感じたものでした。

私は、「解のない問い」に向き合い自分なりの解を導き出すために必要な、「理解を積み上げるための作業」の真っ只中にいました。

そんなチュートリアルをこなしながら、同時に自分で試験の準備をしないといけません。年度末の試験で不合格になった場合、追試はなく、退学しかないという制度は私に大きなプレッシャーとしてのしかかりました。

 

毎週「本の山」と格闘。毎回ぎりぎりまでこの抽象的な議論をどう結論づけるのかに頭を悩ませ、徹夜で仕上げるのも珍しくなく、チュートリアルを楽しむ余裕はなかったのですが、

このチュートリアルは、文献や理論にもとづき議論を展開するという訓練であると同時に、

 

基本的には、正解を求めるというよりは、先人の歩みを追いながら自由に考え、新たな考えを導き出す考える過程(思考プロセス)を習っていたのだと思います。

 

今思えば、「どんなテーマでも本質的に考えることを常に追及して良い」というオックスフォードの雰囲気は、私に「自分でテーマを切り開き追求する楽しさ」、「多様な視点があってよいこと」、「解のない課題に対して考える姿勢」の土台を身につけさせてくれたように思います。

 

そして、授業が始まりました!

まず、基本課題の文献リストにびっくりです。

 

ほとんどが20世紀の文献で始まるのです。

オックスフォードの人類学は、20世紀はじめに南スーダンの部族を研究し有名になったイギリス人の人類学者であるエバンス・プリチャード(後に伯爵)が学長をつとめていた所ですが、彼の書いた南スーダンのヌエル族に関する民族誌が必須文献の一つでした。

ただ、これが1940年に書かれたとは思えない位、今現在の世界での現象にも本質的に当てはまることに驚きます。エバンス・プリチャードの著書「ヌエル族」にこうあります。

「集団との対立においてのみ、彼は自分がある集団の成員であることを認識する。」

自分たちに近ければ近いほど、ヌアーは相手の民族に近親感を抱くと同時に、容易に敵対関係にも入り、また融和することもできる。

 

簡単に言うと、部族や集団のアイデンティティーというのは、一人で確立されるものではなく、誰かとの関係において決まるものであり、人がどの集団のアイデンティティーを強調するかどうかは、その時の政治的な状況によって決まる、という訳です。

なるほど(!)、今、世界で見られる民族や宗教対立にも当てはまるように思います。

 

そして、同じ頃、前年に経済の分配と貧困・飢餓に関する研究でノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センがオックスフォードに講演にやってきたのでした。ホールはいろいろな学部の学生と教授で満席でした。

9歳の時に、200万人を超える餓死者を出した1943年のベンガル大飢饉でセンの通う小学校に飢餓で狂った人が入り込み衝撃を受け、同じ時期、ヒンズー教徒ととイスラム教徒との争いで多数の死者が出た記憶と、インドはなぜ貧しいのかという疑問から経済学者となる決心をしたと言われるセン。

経済学の中でも高度な数学論理学を使う牽引者でありながら、彼が言ったことはとてもシンプルながら、私の心に響きました。

 

経済学は数字だけを扱うのではなく、「共感性・関わり合い・利他性」(コミットメント)を重視し、弱い立場の人々の悲しみ、怒り、喜びに触れることができなければそれは経済学ではないと。

 

学生から出た質問に丁寧に応え、どこからの教授から出た難しい質問にはとても単純に応えていたのが印象に残りました。

 

真実や本質というのは多分とてもシンプルなものなんだー

 なぜかそう感じました。

 

Amarthya Sen.jpg

 

そして、私の中である思いがさらに大きくなっていました。

さて、人類学や社会学という視点が民族紛争の解決や予防に役に立つことは自分の中で確信した。

 

では現場ではどんなことが議論されていてどう扱われているのか?

20世紀始めの出来事じゃなくて、今現在南スーダンで起きていることが知りたい!

今の世界で起きていることに関わりたい!!!

 

その後、4年間も本当に南スーダンで働くことになるとは全く想像もしてみなかったのでした。

 

マイストーリー⑤初めての国連面接ー電気のないところで暮らせますか?

マイストーリー③私ってすっごいバカかも知れない!

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投稿者: blossomjp

80カ国以上もの人達が ー文化も言葉も職歴も違う人達が ー アフリカの僻地で出会い、突然「国連軍」として「国連警察」として「国連職員」として仕事を始めることになっった。。。 国連に「出稼ぎ」に来ている人もハーバード卒業の「エリート」もみんな一緒。カオスでにぎやかな現場で80カ国の人たちが一緒に平和を築くためには?!

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