わたしの国連での一番はじめの仕事は選挙支援でした。
役所の書類がすべて焼けてしまっていたり、紛争中に国境を超えて難民となった人もいたりと、まず人口も有権者の人数がわかりません。なので、担当地域の村々を一つづつ周って、村長さんにだいたいの人口を聞き、選挙名簿をつくることからはじまります。
選挙名簿をつくる際には、生まれた場所や今住んでいるところ、生年月日などを登録していくのですが、年配の方は自分が何歳なのか知らない人がたくさんいます。なのでこんな質問をします。
「おばあちゃんが生まれたのいつですか?
ポルトガル時代ですか?
日本時代ですか?
インドネシア時代ですか?」
そして、そもそも選挙ってなんですか?という「選挙教育」(Civic Education)を村でやっていきます。
「これから東ティモールは新しい独立国となります。
選挙というのは新しい東ティモールという国の代表を選ぶ機会です。
この人たちが議会のメンバーになります。
そしてこの人たちがやる一番はじめの重要な仕事は憲法を決めることです。
憲法とは東ティモールという国がどんな国になるのか、何を大切にするのか、を宣言する一番重要な国の決まりです」などなど。
東ティモール人のスタッフとチームを組んでこれをやったのですが、何度も同じことをしゃべるので最後は現地語でも選挙のことをだいぶしゃべれるようになってしまいました。
ちなみに、2001年当時、インターネットも携帯電話回線もほとんどない時代で、選挙登録カードを発行するのにはラップトップと小さなプリンターが必要だったのですが、電気がない環境なのでそのラップトップを作動させるのためだけに発電機(ジェネレーター)が必要でした。
雨期になると川の増水で孤立する村があって、車で川を超えるのも無理そうだったので、選挙登録作業をするためにヘリコプターに出動してもらうことになりました。つまり、たった一つのラップトップを動かすためだけです。
その村まで私と東ティモール人スタッフのチームでまず歩いて行って、ヘリコプターが着地できそうな平地を探して、地上から手を降ってヘリコプターを「ナビ」しました。
国連に赴任したばかりの時、誰かから「実際の仕事内容は現場に行ってみないとわからないよ」と言われたことを覚えてます。
今なら通信事情もツールも格段に進化しているから、もっと簡単な方法があると思うし、正直それが一番いい方法だったかどうかも分からないけど、当時の私にとっては新しい国の代表を決める選挙なんだからそれ位してもいいと単純に思ってました。状況を説明して提案をサポートしてくれる同僚がいたのは幸いでした。
わたしの場合は状況がたいへんだったり緊急事態の方が力が引き出されるタイプみたいだけど(笑)、国連でもNGOでも、実際に何をするかって自分のイニシアティブでずいぶん変わってくるから、そういう機会があったらどんどんチャレンジして欲しいなと思います。
ヘリコプターを地上から素手で誘導するの、もうやらないだろうけどね(笑)